this worthless life

思ったことをそのまま書きます

『今夜、すべてのバーで』中島らも アル中患者の面白くて深い話です

 

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だんだら縞のながい陰を曳き、みわたすかぎり頭をそろへて、拝禮してゐる奴らの群衆のなかで
侮蔑しきったそぶりで、
ただひとり、 反對をむいてすましてるやつ。
おいら。
おっとせいのきらひなおっとせい。
だが、やっぱりおっとせいはおっとせいで
ただ
「むかうむきになってる
おっとせい。」

金子光晴 『おっとせい 』

この詩のこの部分が好きだった。中島らもさんは「むこうむきになってるおっとせい」なのだろう。半分自伝のような小説です。憂さを忘れるために、現実から逃れたいために酒を飲む。みじめな状態でいるより、意識を失っていたほうがまし。だから酩酊のために薬のように酒を飲む。酒を飲むのは慢性自殺のようなもの。

「教養」のない人間には酒を飲むことしか残されていない。「教養」とは学歴のことではなく、「一人で時間をつぶせる技術」である。

あるとき、とうとう倒れて病院に入院をすることになる。そこで様々な入院患者に会う。90歳を超えた爺さんが

「若い人は自慢して威張りたいけれど、たいていは年寄りは知っていることだから年寄りは黙っとくほうがいい」「神様は意地悪だ。生きたいものは死なすし、死にたいもんは生かしている」

屋上でフーゴーバルの詩を読む17歳だけどまだ中学生の少年と話をする。

「僕は芝居がしたいんです。それも人が怒り出すくらい馬鹿々々しいのが。でもね僕があんまり何かになりたいって言い続けて、それで途中でもし死んじゃったら、残った人が余計に悲しむでしょ。あんなになりたがっていたのに慣れずに死んじゃったって。だからなるべく何になりたいって言わないようにしてるんです」

病院から抜け出して酒をあおって病院に帰ってきたらその少年が亡くなったことを医者から聞く。一人っ子だった。

「なおる奴もいりゃ死んでくやつもいたよ。私は何とか助けてやりたいと思った。私だって17歳までに面白いことなんか一つもなかった。面白いのは大人になってからだ。1センチ伸びていくごとにものが見えだして風景の本当の意味が分かってくるんだ。そうだろ」

「”助けてあげたい”ってのは思い上がりだよ。患者は自分で自分を助けるしかないんだ。問題は患者が前に進むことだ。生き残った者がそれをもちだして涙を流すなんて大きなお世話だ」

少年の遺体の代わりにお前がのっかれ、と霊安室で殴り合いのけんかになる。

ここに出てくる赤河先生がいい先生です。口は悪いが、非常に深い心をもった人です。とにかく助けてやりたい。

「死ぬんだったら勝手に死ねばいいでしょ」

兄と父を亡くした友人の妹の愛情のあることばだ。アル中患者はそれぞれ背景に様々な問題を抱えている。そしてその家族も様々な心の傷を持つ。

声を出して笑える、ちょっとおもしろい良い小説でした。李白の”一杯一杯また一杯”の詩を思い出しました。